米本太郎
神田京子大独演会に向けて
(神田京子さん野田神社能楽堂を体験)
京子さんとは、山口市菜香亭にて行われた「鳥羽伏見の戦いと錦の御旗」の準備の段階で知人から紹介をされ、ご縁ができました。それ以降も微力ながら応援をしています。
私は狂言、京子さんは講談と、同じ伝統を受け継ぎ、未来につないでいく役割を果たしています。ただ、今の時代、伝統だの伝承だのというすぐに結果の見えない、むしろ永くやっても結果が出るのかわからない世界への敬遠感は身を持って感じており、どのように伝えていけば良いのか日々苦慮しております。
そんな中、京子さんは古典だけではなく、新しい題材、人物を見つけ、ご自身の経験や伝統を礎に新しい演題を作り、席にかけられており、そうしたことが文化庁芸術祭大衆芸能部門で優秀賞を受賞されることにつながっているのだと思います。
私も狂言という世界の中で、先人が築いてこられた芸を大切にしつつ、自分の中にある思いを乗せ、新しい狂言作りにも取り組んでいるつもりですが、近くで京子さんの姿を見させてもらっているのも励みになっています。
芸能は、自身の芸を高めていくことが最低限、根底にあります。その上で、これまで観たこと、聴いたことのない人に伝えていく努力、知ってもらう活動をし続けなければいけません。学生の頃、私の師からは芸を極めるためには若いときはとにかく芸のことだけ考えろ、新聞やテレビだって見る必要がない、そんな暇なんてないんだ。とにかく謡を覚えろ、型を覚えろ、個性だのなんだのは一切必要ない。とにかく真似をしろ、基礎を作るんだと、今の人たちが聞いたらびっくりするようなことを言われました。当時の私も正直そんなことできないと、意味をなかなか理解できていませんでしたが、今となってはその真意がわかるような気がしています。
今回の大独演の開催は、山口の人たちにぜひ足を運んでもらいたいと思います。それは、神田京子という講談師の山口での集大成でもあり、未来に繋いでいく大きなきっかけとなる会になるからです。山口に移住して、今までとは違う角度で全国を見渡し、公演されていると思いますが、今の京子さんの血肉には山口の空気、食、自然、人がしっかりと溶け込んでいます。ぜひ、これまで応援してくださっている皆様だけでなく、まだ足を運んだことのない方、講談や伝統芸能を敬遠してられた方にも、新しい世界に触れるという気持ちで会場に駆けつけてもらいたいです。私も一ファンとしてこの大独演会を楽しみにしています。
山口鷺流狂言保存会 米本太郎